欧米が信じる日本の賢明さと円安

最近、日銀の黒田総裁の「家計は値上げを許容している。」との発言が波紋を呼び、後日撤回することになりました。
この発言を受け入れがたかった人も多いと思いますが、実はその後、円安が加速したのは同じ日にした別の発言の影響です。
それは「揺るぎない姿勢で緩和を続けていく。」というものです。
その影響もあってこの1週間で、1ドル134円台を突破し、円安は一段と加速しました。
更に短期間で1ドル135円も突破する勢いです。
なぜ、こうなってしまったのか考えようと思います。


1ドル130円あたりで一旦円安が落ち着いた理由


結論から言いますと、

欧米は日本が自分たちと同じ賢明さを持っていると信じている(疑っている)

からです。

これだけだとよくわかりませんよね。

どういうことかというと、日本銀行や米連邦準備制度理事会(FRB)のような国家の中央銀行の役割は、物価のコントロールをすることで、インフレが進む場合は、利上げや金融縮小を適宜行なって、インフレ退治をする役割を担うことを期待されます。

そして、欧米人からすると、当然日銀もどこかの段階で、利上げに政策転換してくるだろう、と見ているからです。

日銀が利上げに政策転換してくると、逆に円高に振れることになりますから、それを警戒して円買いが起こり、一時的にそこで円安が止まる訳です。

ただ、日本人の感覚からすると、黒田総裁が今の方針を簡単に撤回するとは思えないですよね。

では、一見関係ない過去の話から、双方の国民性の違いと、どうしてこのような認識のズレが生まれるか、考えてみましょう。


北朝鮮拉致被害者の問題にアメリカが積極的に関わった理由


「え?全然関係ないよね!?」と思ったそこのあなた、その気持ちは分かります。

ただ、これは日本とアメリカの双方の国是と国民性の違いを理解するうえで、分かり易い事例になります。

今も続く拉致被害者の問題は、当時の小泉政権と金正日総書記が直接会って、拉致被害者の一部の日本帰還を実現するという大きな成果をあげました。

その陰には、これを積極支援するアメリカの存在もありました。

でもこれ、よく考えてほしいんですけど、例えば日本なら、他国の拉致被害者の問題にここまで積極的に関わるでしょうか。

日本人ならそう思うようなこの問題にアメリカが積極的に関わった理由、いや関わらざるを得なかった理由は以下の通りになります。

アメリカは、ほっとくと日本が北朝鮮に攻め込むと思ったから

「えええ!?ありえない」と、ほとんどの日本人は思うはずです。

だって、憲法で自衛隊が軍隊と認められていない国ですよ。平和主義の国ですよ。と、そう思うでしょう。

ところが、アメリカは当時本気でそう考えていた節があります。

どうしてアメリカがそう思うかというと、アメリカ人は自国民が危険にさらされたことが明らかな場合、戦争するからです。

世界貿易センタービルへ航空機が突っ込んで、アフガン戦争が始まりましたよね。

イラクが大量破壊兵器を持っているのではないかと疑っただけで、イラク戦争を始めましたよね。実際にはなかったにもかかわらず。

そういうアメリカの国是を踏まえて考えると、

当時、アメリカは日本が北朝鮮へ攻め込んで起こる、東アジアの不安定化を避けたかったので、積極的に拉致問題に関わらざるを得なかった。

ということが見えてきます。

ちなみに、今はもう日本が北朝鮮に攻め込むとは思っていないでしょう。

結局何が言いたいかというと、

アメリカはアメリカ人的な視点である程度日本を見てしまっている。

ということです。

だから、アメリカ人は日銀が今の総裁のままでも、利上げに踏み切る可能性を日本人以上に疑うし、それを警戒して一定ラインに円安が到達すると、円買いがおこり円安が止まるという訳です。

逆に、日本人の感覚からすると、日銀総裁はメンツを保つために、自分の方針は任期満了まで変えず、(庶民の望まない)インフレ目標達成という形で来年勇退するだろうと予想します。


日本のインフレ率はまだまだ低い?


「アメリカのインフレ率は8.3%で、日本は2.1%だから、まだまだ大丈夫なんじゃないの?」と思う方もいるでしょう。

全然大丈夫じゃありません。

なぜかというと、アメリカは賃金が5.5%上がっているので、実質賃金は大体2.6%強(100ー100×105.5÷108.3=0.0264…)下がったことになります。

ちなみに、アメリカは平均時給を元に賃金上昇率を計算しています。

日本も先日3.02%の賃上げを発表していましたが、これは業績がコロナ前の基準を回復した上位企業たった26社限定の統計なので全く当てになりません。

ここで日本の4月の実質賃金のデータが発表されているので、確認してみましょう。すると、1.2%のマイナスということが分かります。

ということで、実質賃金を並べて比較すると

アメリカ:-2.64%

日本:-1.2%

となります。

確かに、アメリカよりもまだマシではありますが、あまり差がないですね。

日本は賃金があまり上がっていないので、こうなります。

円安が進むと、食料品や生活必需品を海外からの輸入に頼る日本はどんどん物価高になって、庶民にとってもっとマズいことになります。

特に、年金世帯や所得の少ない世帯ほど、その打撃を受けやすいので注意してください。

※まとめ

今回、さらに円安になったのは、6/6の日銀総裁の「揺るぎない姿勢で緩和を続けていく。」という発言と、欧州の0.25%の利上げ発表が関わっています。

それまで、日銀総裁が利上げにいつ踏み切るか、と欧米は警戒していましたが、この一連の流れで円売りドル買いが再び加速しました。

恐らく、今後も黒田総裁の任期終了間近まで、よほどの激しいインフレに見舞われない限りはこういった流れで円安が続くでしょう。

もしかしたら、今年中に1ドル150円を突破するかもしれません。

当然、株価にも影響してきます。

円安がいい影響を与えるであろう企業に投資するのも悪くないかもしれませんね。

そして、円安傾向が続くと輸入する材料費や食料品価格が高騰する一方、ライバルとの競争を考え、企業は努力して価格転嫁を出来るだけしないようとします。

それが我慢の限界を超えると、商品価格に転嫁しますが、それが約半年と言われています。

今のインフレは半年前の円安の影響だと言えますので、逆に半年後は更に物価が上がっていると見て、今のうちに出来る対策をとりましょう。