インバウンド消費と日本弱体化

令和5年5月8日にコロナも5類へ移行となり、欧米に遅れてではありますが、ようやく日本も平常運転に近い状態になってきました。

こうなると、株式を売買する者としては、インバウンド消費が復活するのか気になるところですね。

ただ、今回は、このインバウンド消費に関して、世間とは少々違う切り口で解説していきたいと思います。


【インバウンド消費とは何か】


「Inbound(入ってくる)」と「消費」が合体した造語です。
つまり、海外から日本旅行にやってきた外国人が、日本で買い物やサービスを利用して消費することをさします。

新型コロナ禍前は、よく中国人の家電やオムツ爆買いなどが話題になっていて、実際に売り上げが増えた企業の株価が上がるなど、インバウンド消費は企業業績に大きな影響を与えていました。
そのインバウンド消費を喜ぶ人も多かったのではないでしょうか。
中には、「日本の製品は素晴らしいから売れるのだ」と鼻高々な人もいました。
実際にその通りな部分もあると思いますが、私は心の中でちょっと待てよ、と思っていました。


【インバウンド消費が盛り上がるのは日本が相対的に安くなったから】


「何言ってるの?円安でしょ?売れていいじゃない。」と思う方はちょっと考えてください。

かつて、30年以上前、日本人は欧米に嫌われている面がありました
それは、今の中国人を彷彿とさせる嫌われ方でした。

日本人は欧米に行って、美術品を買いあさる金の亡者と思われていたのです。
また、アメリカ相手に大幅な貿易黒字を達成し、特に日本の自動車がそのけん引役でした。
アメリカでは貿易摩擦から、職を失った労働者に日本の自動車が焼き討ちされたこともあります。

それは、ゲーム会社カプコンが当時発売したファイナルファイトやストリートファイターシリーズなどで、「日本車を壊す」というボーナスステージがあったことからも分かります。
ゲームを海外で売るために、海外プレイヤーのストレスを解消させるために、敢えてそういった要素を取り入れていたんですね。

日本は豊富な資金力で海外の資産を買いあさり、それを上手に加工して海外に売って、多額の富を得ていました。
これを「加工貿易」と言います。

しかし、現在はどうでしょうか。
日本は海外の物や資源を買うのに苦労しつつあります。
それも、為替レートは30年前から大きく円安に振れたわけではないにもかかわらず、です。

これは長年企業が労働者の賃金をあげず、デフレが続いている中、海外ではインフレが続いたからです。
と、言われて、「ああ、なるほど。」と即座に思えるなら、インバウンド消費の懸念点など最初から分かっている人でしょう。


【正常な為替レートから見るインバウンド消費の危うさ】


(A国とB国という二つの国から考える正しい為替レート)

仮にA国とB国という国があったとします。

それぞれの保有総資産は

A国(100ドル)
B国(10000円)

と仮にします。

<1ドル(A)=100円(B)>のレートで取引されていたとしましょう。

しかし、ある時、A国が貨幣の総発行枚数を突然200ドルまで増やしました。
この場合、ドルは希薄化(たくさんあるので、希少性が失われ価値が損なわれる)が起こります。
従って、A国とB国の自然な為替レートは<1ドル(A)=50円(B)>の円高に傾きます。

そうでないと、A国はB国の貨幣を買い占めた上で、まだ100ドルの余力が残ることになるからです。
明らかに不公平な状態になりますよね。

ところが、現実世界でこの不公平に近いことがアメリカや中国を含む世界と日本の中で起こってきたのです。

それは世界がインフレし、日本はデフレ傾向が長く続いたにも関わらず、為替レートが円高に傾かなかったからです。
このため、日本は海外から、サービスや商品を安く買いたたかれるようになり、輸入に苦労するようになった訳です。
それが近年の大幅な貿易赤字に表れているのです。

為替レートが大幅に変わらないにも関わらず、本来海外の貨幣に比べて、より希少になっているはずの円が、実はどんどん弱くなっていた、という訳です。


【インバウンド消費が盛り上がる真の理由】


海外の人にとって、自分たちの給料がどんどん増えていて自国通貨が強く、円が弱いため、自分たちの国の同じような製品よりも、日本国内の製品のほうが安く買えるようになったから
以前は、日本人が絵画を買いあさるなど、逆のことを行なっていました。それは日本が経済的に強く豊かだったからです。)

日本の製品の性能と信頼性が高いから

となります。

アメリカに半導体輸出規制を強いられ、日本は今や、完成品を作る能力が失われています。
携帯電話と言えば、日本製P(パナソニック)の〇〇、F(富士通)の〇〇、日の丸半導体、と言っていた時代は過去のものとなりました。

私たちは、インバウンド消費が盛り上がって嬉しいと単純に考えるだけでなく、中国人が日本の無人島の一部を買った、ということの意味を深く考えるべきなのではないでしょうか