セルインメイと冬相場

5月に株関連の掲示板を見ていると、株価が下落した時に「セルインメイだから売られた」と書いてあることがあります。

それを見て、『この方はもしかしたら米国の格言の意味を勘違いしてるのかもしれない』、と思うことがあったので、今回はこの『セルインメイ』について書こうと思います。

 


セルインメイ(Sell in May and go away.Don’t come back until St.Leger day.)


元の英語の部分を見て、『うん?』と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。

そう、セルインメイには続きがあります。

訳すとこうなります。

「5月に(株を)売って、(相場から)逃げなさい。セントレジャーステークスの日まで(相場に)戻ってきてはいけないよ。」

いかがでしょうか?

さすがに、これだけだと、多くの日本人にとっては、説明不足かもしれませんが、一つだけ確かなことがあります。

それは、

「5月は株が売られる」ではなくて、Sellという動詞が文頭にあることから命令形であり、「5月に株を売りなさい」が正しいということです。

逆に言うと、

【5月は相場の天井で夏場は下がるから、売っといたほうがいい】

という意味になります。

となると、気になるのは残りの後半部分ですよね。

「Don’t come back until~」は「~まで戻ってくるな。」でいいとして、

「St.Leger day」って何?っていう方もいらっしゃると思います。

これは、英国競馬の3冠(2000ギニー・ダービー・セントレジャー)の最後のセントレジャーステークスが開催される日のことを指しています。

このセントレジャーステークスは日本競馬の3冠最後の菊花賞のモデルになったレースであり、1776年に創設された世界最古のクラシックレースです。

そして、その開催日は毎年9月の第2土曜日です。

ということは、セルインメイとは意訳すると

「5月に売って、9月の第2土曜日を過ぎた頃に戻ってくるといいよ。」

という意味になります。

ダービーよりも歴史が古く、創設当初は最も権威あるレースだったセントレジャーステークスでしたが、時代の流れで権威も薄れ、今では意味が通じにくくなってしまったので、現代では分かり易くそのように書かれている場合もあります。


【セルインメイは本当か?】


 

下図は1993年~2021年途中までの月間騰落率です。

 

(出所:各種資料よりみずほ証券様作成)

 

この資料を見る限り、セルインメイは毎年起こるとは言えないものの、平均するとその傾向があることがうかがえますね。

 


【なぜ、セルインメイになるのか】


 

格言の意味は上記の通りで、理解できたと思いますが、では、どうしてそうなるのでしょうか。

これには、日本と米国の違いをまず理解しなくてはいけません。

【日本】

年度は4月に始まり、3月で終わるのが当たり前です。

学校は4月に入学式があって、夏休みは7月終わりから8月いっぱいのところがほとんどですよね。

会社も入社式は4月にあるところがほとんどでしょう。

一方、確定申告は前年1月~12月分を3月にかけて、申告します。

【米国】

公共機関の会計年度は10月~翌年9月まで。

学校の入学式は9月にあって、夏休みは6月から8月いっぱいまでの3か月弱あります。

会社の会計年度は多くの場合、1月から12月です。

 

さあ、頭がこんがらがってきましたよね。

要は、日本の常識と米国の常識は違うということです。

特に、夏場のバカンスシーズンは長く、欧米人にとって、とても大切なリフレッシュ期間なので、その間は株式市場から離れて、ゆっくりすることが多いです。

今でこそ、スマートフォンのタッチ操作一つで、株式の売買が出来ますが、一昔前は電話で専業のトレーダーを介して取引していました。

そうなると、株式を大量保有して、急落がいつ来るか分からない不安を抱えて、バカンスも何もありませんよね。そこで、6月に一旦保有株を手放して、スッキリした状態で、休暇を楽しむ人が多かったのではないかと思います。

その後は、バカンスが終わるまで、薄商いになりますから、株価は8月の終わりにかけてズルズルと落ちていく傾向にあったのだと思います。

ただし、先ほど申し上げた通り、今現在はスマートフォンの操作一つで株の売買が出来ますので、以前ほどその傾向は強くないかもしれません。

一方、欧米人は、日本人と比較して、オンとオフの切り替えをしっかりしますから、いまだに夏場に手仕舞う人も多いかもしれませんね。

そして、バカンスが終わって、新年度である9月に徐々に市場に復帰してくる流れがあるのではないかと思います。

 


【冬相場】


セルインメイの大まかな理由は上述の通り『6~9月の初旬にかけては株価は低調であることが多いため、5月に売って、9月の半ば以降に相場に戻ってくる』というのが正しい意味でした。

じゃあ、反対に株価はいつが上がりやすいのか、気になりますよね。
ここで【セルインメイは本当か?】の項目で掲載した図をもう一度見てみましょう。

 

(出所:各種資料よりみずほ証券様作成)

【ダウ(拡大図)】

(出所:各種資料よりみずほ証券様作成)

 

【日経(拡大図)】

(出所:各種資料よりみずほ証券様作成)

 

良く見てみると、ダウも日経平均も秋が深まる頃から、翌年の春にかけて上がっている傾向があります。

ということは、秋に買って、春に売れば、勝率が上がることがわかると思います。 これが冬相場です。

 


【冬相場になる理由】


❶秋になると、バカンスから戻ってきた投資家が増え、徐々に株式市場全体の出来高が増える

秋が深まる頃からイベントが多い

10月末にハロウィンがあり、年末のクリスマス商戦。そして、新年のご祝儀相場。

日本の場合も、年末商戦や福袋。4月の新年度に新しい生活が始まる場合、それに備えた移転と家電の買い替えなど。

中国の独身の日(11月11日)。春節(旧正月)。

このように全体的に消費意欲が旺盛になり、株にもその影響が出る

❸配当が3月末に出る企業が多いため、その配当狙いの投資と、4~5月で実際に支給された配当の再投資。

❹12月〆の会計とその確定申告に備えた節税を目的とした株の売買、利確・損出し。そして、その際に戻した現金を使った新しい投資先の物色。

など、出来高が増える条件がいくつかあります。

出来高が上がるということは、株式市場全体が盛り上がるということですので、株価も上がりやすい、ということになります。